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百合の氷紋

万明日
光の結社


 かつては大切なことだった気もする。純白の正しさのなかに、埋もれてしまったあれこれだ。むかしのわたしといえば、ずいぶんと余計なことに頭を痛めていたのだと思う。今や道は拓かれている。たったひとつであることは整然としてうつくしい。煩雑なものは好きではなかった。
 隣に並ぶひと、おなじ正義を掲げているひと。汝の隣人、それが運命だとすれば、わたしは従うまでだった。一枚のカードが磁力を持つ。啓示を受けたものに、正しい磁力がはたらく。
「きみは恵まれていると自負していい」
 隣人、万丈目準、がふと口を開く。
「黄金であることは、白の次に貴いと思うね」
 彼はなぜだか疎ましそうにつぶやいた。たぶん、自身の髪と眼の色が気に入らないのだろうと思った。持って生まれたものを疎むなんていけないことよ、とわたしは言った。なぜそう言ったのか、それもまた不思議だった。
 あのお方ならなんと言うだろう? わたしの正しさはあのお方の正しさだ。だからわたしはわたしの正しさについて何も知らなくていいはずだった、しかし今唐突に、水面に泡が浮かぶように、わたしのなかに忌むべき「憂慮」があらわれたのだった。そう、磁力が導いてくれるのではなかったか。わたしの答えも自ずと正しいのだ、ちがうのかしら?
「天上院くん」
「他人をうらやむなんて、愚かだわ」
「そうだな」
 苦しまぎれを、彼は自然に受け入れた。わたしはそれがなんだか悔しく、だが彼のありようを夢のようにも感じた。大切なことがあったような気がする。たとえば見据えた光、わたしたちが信じる正しさとは異質の、ただひとりへ向けられる刃のような……わたしは知れず、黒檀の眼のなかを探っている。憧憬。定められた未来に抱くことのない無意味なもの。愚かだわ、と声が跳ねかえる。開けてはならない箱を目前にした者の思いだった。この深い闇のなかに、氷の造形を無惨にするものがひそんでいる。
 は、と我にかえった。耳もとに華奢な指が延びていた。その白さ。愛せよ、と言われたら従うまでだ。わたしは身をまかせている。愛せよ、汝の隣人……梳かれる髪の心地よさは、正しい磁力が導く命じられた愛の顕現だろうか。手のひらに透き徹るみたいだ、と声を聞いた気がした。その声の主は微笑っていた。その眼のなかには信ずるべき正しい光だけがあった。拓かれた道はただひとつだ。なんという磁力、なんという顕現なのだろう。すべては夢で、わたしは目醒めている。うたかたは光に巻かれ、見つめあったまま、なにもかもがぼやけてしまう。

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