夢のあとさき 天上院吹雪とミザエル 悲しいことだろう。太陽を突き放すように揃えた黄金の髪のわけをぼくは知らないのだから。けっして外さない髪飾りも、誰がくれたものかなんて訊いたことはない。でもそれはどこか少し、懐かしい友のような光加減でちらつく。「暑そうだねえ、そうだ、サーフィンとか」「行かない」「ミザエルくんが心配だったから言ったのに」 彼はいつものしかめつらを一層ひどくした。せっかくそばに海があっても喜んで行こうとしなかったので、不思議だった。彼は、どちらかといえば森の方が性に合っているのだと言った。鬱蒼とした木蔭に金の髪がゆらめくだろうか、そして静かに佇むだろうか、想像できないものでもないが、納得もいかない。ミザエルくんはあまりにも、なんというのだろう、ぼくたちに見せる表情を限りあるものにしているようなのだった。 蒼い目をまぶしそうに細めて、怒ったように遠くを睨め付けている。肌の陰が赤らんで、ガイコクジンみたいで素敵だねと言ったら怒られた。わたしには生まれなど関係ない、わたしにとって大切なのはどう生きるかだけだ、と彼は言った。ぼくもそう思うよ、そのうえで、ずっとここにいてくれたら嬉しいな。「砂浜は好きじゃない」「どうして」「むかし……を思い出す、生まれなどもう、考えたくもないのに」「ミザエルくんがドラゴンを好きになった過去だろう、ぼく知りたいけど、教えてくれないじゃないか」 彼の髪……のような、黄金のドラゴン、両の目のように悲しい蒼の伝説があったと聞く。ぼくはただミザエルくんが今でもそれらを憎んでいるか、あるいは愛しているのか……を知りたかった。懐かしい友の残滓。君が零すあらゆる覚悟や決意や信心が光って舞う。 ミザエルくんはずっと黙っていた。汗ばんだ首筋が風にすこし覗いた。これからもたぶん彼は話さないだろう。そしてぼくも深くは訊かないのだろう。そんな約束なんてないはずなのに、ぼくたちは誰に話すでもなく呟いている。お互いたしかに見つけたはずなのに、別々の時代、おなじ場所に立っているようにすれちがう。