なに見て跳ねる 刀剣乱舞いちごこ ゆらめく月の増える夜であった。水辺を見たか、と思えばためらいがちに欠ける、そのまことをよく知っている。ほのめく花車は仔猫に似て、一期一振はおのれの無骨な剣の切先がわずかに恨めしくなる。はかなげな刃のひとすじだ。そこには我らにない一種の親切がある。弱きものはうつくしきなりとは言わぬ、つもりだが、はらからを愛しむことが罪かどうか、彼には分からない。愛の種類には疎い。ものにはきっちりと境界を引きたい性質だった。「およし、目を伏せるのは」「でも」「せっかくの夜だよ」 五虎退はようやっと兄を見上げた。月の満ち欠けを早回しに眺めるようだった。傲慢を飼いならす蜜を湛える瞳は、兎の影を臆病にも落としている。手を取れば泣きそうだ。この無骨がそれほどおまえを怯えさせるなら、いさおしとはなんであろう。存在意義をみずから問うのは人の役目だ。だれかをいたわる心も、剣の蒼白にかき消されるはずなのだ。「いち兄」「怖い?」「ううん、そんなこと……」「いいんだ」 一期一振は生命のみなもとをその影に見た。抱きすくめた身体は鋼とはちがうやわらかな熱をもっている。いまさら殺しをやめることはかなわなかった。いまだって染みついた血の紅さが、炎に重なって鼻をつく。けれどももし、この熱までもを育むことができたら。この子はやさしすぎた。その魂は、鉄で固めるにはあまりにもしなやかに躍動していた。鬼神はもはや、愛を知らぬべきなのだ。しかし兄は、おのれにある種の「にんげん」が喚び起こされるのを、匂いたつ体温に感じざるを得なかった。「ぼくは……ただ、かなしいだけです」 腕のなかで声がくぐもっている。だれをかなしむのだろう。すべてを。星が曇ることすらさびしい子だ。今夜はいっとう寒かった。一期一振は腕のなかの花車をきつく抱きしめたまま、そのうなじに頬を寄せた。わたしもだよ、と呟いて、感じないはずの心が強く握られたように苦しかった。「だって月がね、いちだんときれいなものだから、」 大いに悲しめ、ひとびと。しずかな夜はおだやかで、長かった。おれはこの安寧が恐ろしいのだと一期一振は思った。振り向くための道をなくしてから、ずっと必死に駆けてきただけだ、そしてこれからも。道を作ることだけを考えていた。衣が五虎退の涙に濡れるのを感じながら、人ならざるものの倫理の有無について、ぼんやりと巡らす。こんなにも細やかなもの、傷つけるのは容易い。なぜなら鬼神の愛は暴力的でしかなかった。それでも傷つけまいとしたのは、倫理だろうか。「きれいだよ」 うつくしさは琴線だ。身を起こし、おどろいたように一度まばたいてこぼれた光が彼を烈しい破壊にいざなう。戻れなかった。はらからへの愛は明確に区切られた。「にんげん」を得て研がれた暴力にいま、おれは呑み込まれているのだ。ぬるく甘やかな想像に身震いしながら、いつの間にかくちづけている。