翼のあるしずく 天城兄弟 びいだまひとつ、握っていたら、手のなかで溶けそうになって怖かった。こおりじゃないし、未来はうつらないよと笑った。ときどき兄さんはこおりで、びいだまだ。兄さんはぼくのゆめのはなしを聞くのが好きだと言う。だけどぼくにはちっとも自分の見るゆめを話してくれない。ぼくはびいだまをころがした。透明なひかりが床を駆けていった。 ──きれいだね。 兄さんはだまって微笑った。その目はじっと、ころがるひかりに注がれていた、やがて壁にぶつかって止まってもなお。兄さんのこころには窓がない。あったらぼく、開けて涼しい風を入れてあげるのにな。どんなゆめを見るのだろう。覗きこんだかおは、がらすのように向こうがわを透かしてしまう。だけど兄さんはどこにいるのかな。目のなかには、ひかりのゆらめき。そのかたちは、絵本で読んだ竜のすがた。 ──兄さんどうしたの、 ──うん……なんでもないんだよ、さ、拾いにいってあげよう。 ──いいの、ぼくできるよ。 言ってぼく、立ちあがった。兄さんはころがるびいだまのひかりを、飲みつくして浴びつくして、こおりになってそのうちつめたく溶けてしまう。それが怖くて、ぼくはあのちいさながらすの球をだいじにしなければと思った。びいだまのうちはおまえは溶けないね。ぶつかったひかりの球はしばらくうろうろと彷徨ったあとは、所在なくしずかにぼくの手に抱かれることを待っていた。 ──ハルト、 兄さんの声がやさしかった。 ──なあに、 ──あれは、きれいなひかりだったね。 いつかこのがらすに閉じこめられた、未来を知らないさびしい竜をもとの空へ放さなくちゃなんない。ぼくはうなずいた。いまもきれいだ、兄さん見て、と掲げた宝石を、ぼくごと抱きしめてほしかった。