かなしみよこんにちは 天上院吹雪とミザエルずいぶん前に書いたものでしたが載せてなかったので載せます カードを並べていたら、肩を叩かれた。ふざけた男だと思う。中身にそぐわずおちついた髪色も、どうやら今のわたしには沈んで見えるほかないようだった。「ミザエルくん、デュエルとても強いそうじゃないか」「そうだな」「いい自信だねえ、うん、ぼくそういうの好きだな……ね、きみのお気に入りはどれかな」 彼はなにも知らずにわたしの領域へ踏み込んでくるから嫌いだ。金の髪が妹に似ているからと、はじめから、ずいぶん馴れ馴れしいものだった。わたしは並べたカードを手であつめて覆い隠した。肩越しにかぶさるような影がさびしそうに萎縮して「乱暴はよくないよ、カードにだってね」と呟く。そんなふうに罪を受容されるのは苦しかった。かつてわたしを包んだつめたい闇と近しいものを、彼は知っているらしかった。「きさまの使う竜」「真紅眼?」「そう、わたしの呪いも……あんなふうに真っ黒だった」 呪いと呼ぶのがこれほどつらいとは。分かっているつもりだった……分かっていた。たったひとり、なによりも先へ望んでとどまっていたわたしには、そこはひどく寒かった。人はみな光のなかで恩恵を受けていた、それを笑うことでうまくやっていたつもりだったのだ。 わたしのうつくしい呪いは、その先んじるちからのために、あらゆるかなしみを打ち消していた。あれはもういないのだ、だからわがままは言えない。わたしが生きるためには摂理に向き合わねばならなかった、あれはそのなかに溶け合わねばならなかった、そしてかなしみもまた摂理だった、それだけのことだ。「黒が嫌いかな」「かもしれない、わたしを縛った色だ」「だけどとても正しい色だと、ぼくは思うんだよね」 彼はまるで子どもだった。見てみたかったなと笑った。わたしは目をそらした、でなければ泣いてしまいそうだった。いつからこんなに弱くなったのだろう? あれだけこだわった強さというのがちっとも思い出せない……おそらくはあの闇のなかに置き忘れてしまった。 わたしも子どもだった。罪を知るまえと知ったあと、あまりにも違いすぎて、憎むこともできなかった。無知なのはわたしだけで、あれはただあるべくしてあったにすぎない。「おまえなんか嫌いだ」「ごめんったら、嫌われちゃたまらないよ」「謝るなばかもの」 かつてわたしを包んだ闇が、これほどあたたかければ、とふと思う。彼はわたしの覆った手をそっとひらいて、カードを並べなおしながら、これも、これもいいね、きみの言っているその竜も、きっとすてきだろうね、と言った。わたしはだまってうなずいた。けれども彼があのきらめきを見ることはかなわないと知っていた。そしてわたしは、彼の並べなおした一枚いちまいを、うら淋しい愛おしさで撫でた。