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カーネリアン

カイトとミザエル


 触れえぬ星はとおい過去だ。むかしの人は時を止めたまま姿をあらわす。どうして今だったのだろう、金の鱗でかためた、風化した虚勢であった。あの日はおそらく、理論を超えた時間で残っていた。むなしい過去も、ここにいる現実もおなじ理由で生まれてしまう。記憶は器にとらわれないということを、なんにせよ、知らぬわけにはいかなかった。
「今をさいわいと、呼べるかもわからんな」
「簡単に決められるもんじゃない」
 光を置き去りにしていく、凍てるまなざしがもう一線上に並ぶしかない。おれを見ては切なかった。追いついた煌めきは、素朴で、古めかしくても、これは善いものだと言って、貴さを胸に浸すことをおぼえた。しっとりと瞬くようになった。渇いた命は永らえても、けっして美しくはない。そのひとは寂寞の目のなかに、みずからも気づかぬ刹那的なあこがれを保ち続けていた。それゆえに人となってからも、隠れた砂鉄が引かれるように、そのあこがれが浮きあがっているのであった。
「それでもいいのか? おまえは、わたしに否定をされたとしても」
「もともと、おれのためだけにやってたことだ……そんなの、ひとに認められたって」
 自己救済のために他人を乱して、罰されるべきはおれだった。誰も彼も、いずれこの手を離してひとりでゆくべきなのに、甘えはやさしく、やさしさは甘えだ。縋らねば生きられないという絶望を叩きつけて、ふたりで指を絡めあう。かりそめに幸福であるのだということを、ゆめゆめ忘れてはいけない。こうしておれを、色なくして正しく見据えるひとがいる。それを信じるだけの強さがあっても今だけならば良かった。
「そう、勇者などいなかったものな」
 ミザエルは微笑った。過去はたいてい、花に芥になる。このひとは気高くやさしい。慰めに近くても確かにそれはさびしい真実であった。みんな刹那を必死で駆けただけだ。おれたちは等身大に生きたかった。絡める指先にいとしく治りかけた、くだらない傷までをも、なにも隠さずに。

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