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ミザエルと小鳥
ちょっぴりカイミザ風味です


「そういうんじゃなかったんだ」
 押し殺すような声で決まり文句。河川敷で唇とがらせている、以前の、異世界のひと。今はわたしたちと同じ血がながれてるって聞いた。たしかに心なしか、おだやかになった気がする。ミザエルはすでに平べったくて、ゆるい三角形の小石を、自分の両手でぺたんと潰すように持った。さっきからずっとこれの繰り返し。こうやって子どもみたいなことをしてるのを見つけちゃったら黙ってられないの、きっと長く遊馬のそばにいたせいだ。
「ただ、カイトにはもうすこし、家族、家族とだな」
「うん」
「楽しいことを、いや」
 そこでミザエルは持っていた小石をぽんと捨てて、また別の石を両手ではさんだ。次のはつるつるで丸い、ちいさいやつだった。
「食事をしたり、カイトたちならいっしょに仕事をするのだっていい、そういうあたりまえのことをだ」
「うん」
「どうしてだろう、それなのに、わからない」
 わたしに構わないでくれ、と、それだけ言ってしまったことを後悔している。心にため込んだものを言えないのは、単純に淑やかさでは済まされない。素直になれなかったりして誤解されることは、誰にだってある。けれども、それをよくあることだと言ってしまうのはあまりに冷たいし、この人がまだそういうものに慣れていないだろうことは、すぐわかる。カイトが取り戻したものを、ミザエルがいまさら手に入れることはできない。血のつながり。絶対に切れないと信じてるから脆くなるものを大事にしてほしかった、そんなの、やさしいじゃないの。
「それに、余計なことを言った……カイトはじゅうぶん家族思いだ」
「でも心だけじゃなくて、機会を、でしょう」
「ええと……うん……ああ、そう、それだ、わたしが言いたいのは」
 その瞬間にぽんとまた小石を投げると、かちんと別の石にぶつかった音がした。こういうことで悩めるのは、ずるいと思う。嫌われたって泣きそうになるの、わたしはうらやましいけど、そんなこと言ったらたぶんミザエルは困るからだまっている。河原は流れっぱなしで、それすら嫉むわたし、なんとかならないの。
 ミザエルはそれから、ぽつぽつとカイトの話をした。自分のためにわざわざ部屋を用意してくれたことだとか、手料理がどれもおいしいことだとか、とりとめのないことを次々と言った。幸せな悩みだって不安なのだ。そういう話をしているとますますつらくなるはずなのに、ミザエルはそういうこともなにも知らない、まるっきり、カイトのことしか知らないみたいに話した。つまりそれしか知らないから、愛されていることを自覚していない、やっぱりあどけない子どもなのだった。
「心配してるかも」
「誰が」
「カイト」
「さては話を聞いていなかったな」
 ミザエルはしかめつらをした。怒ったようすだったが、すこし淋しそうなのが口もとに見えていた。うそが下手だ。まっすぐで、ばかだ。いつも言葉をあやつりきれなくて、けっきょく、言葉じゃないところでまた繋がっているのだった。みんなどこか似ている。みんな、いとしいところがある。
「ばかね、もう、」
 あーあ! 足もとのやわらかい草をつかんで投げた。風向きはわたしの味方だ。ミザエルは文字どおり面食らって、ばかじゃないって怒鳴りながら仕返ししようと草を土ごとひっつかんで、やめていた。くやしそうにじっとり見つめているけど、おぼえてる? わたしのが痛かったんだから。だけどこれでおあいこにしよう。あのときよりずっと、ミザエルは痛みのわかる人だからだ。
「甘いもの食べに行こうか。カイトのこと、めいっぱい心配させちゃおう」
 すぐに「それはできない」と戸惑った返事。あまりまじめなので、ちょっと笑ってしまった。ね、いまはそれが、あなたの正しい答えだ。言い捨てておもわず飛び出しちゃった、そうなる前にこんどは草でもなんでも、やわらかいうちに投げつけちゃえばいい。言葉がむずかしいなら、そんなのでいいよ、男の子。もしかして、うらやましいのはそういうところなのかもしれない。
 ミザエルの新品のDゲイザーが鳴いた。
「カイトだっ」
 あせったような、はしゃいだような、泣きそうなような、安心したような、うわずった声が水面をゆらす。

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